藤井太洋『マン・カインド』

4.0
Book

藤井太洋
マン・カインド
(早川書房)

ゲームデザイナー・小島秀夫監督が選ぶ2024年度のミステリー小説『ヒデミス2024』で紹介されていた一冊。
タイトルと本の装丁(デザイン)が気になっていたので読んでみました。

AIが人々の私生活や仕事に普及して、「AIは存在して使用して当たり前」になった近未来の話。
主人公は戦場カメラマン・記者で、AIが普及した時代の戦争も、もはや〝無駄〟な殺生で争うのではなく、合理的に決着するルールで戦争がおこなわれる時代。
そんな中、戦争の当事者で物語の重要人物が、虐殺という合理性を無視した戦争行為をして、主人公は記者として全世界に報道を試みるが、AIにより〝フェイクニュース〟と判定され情報が封印されてしまう。

なぜ虐殺をしたのか、なぜ事実が報道出来なかったのか。

著者はデザイナーでありIT畑でも仕事をして来た経歴からなのか、IT絡みの描写は緻密で、そっち系に馴染みのない方とか、私のようなSF初心者には、著者の世界観から生まれるオリジナルの単語や仕様が、まずは怒涛の如く立ちはだかるので、「あれ、これは何の意味だっけ」と後戻りしたり、SFあるある?的な感じもあったのですが、それはそれとして「もう、いいか」とスルーしながら読み進めて中盤辺りで、色々な秘密が紐解き始めてからは、グイグイと読み進めてどっぷりハマりました。

近未来のSFの世界の話ではあるのですが、読み終えてみると、現代社会の抱えている問題が投影されているなぁ、という印象でした。
AIに委ねる社会基盤もそうなんですが、その中で生きる人間がAIのような合理性の判断を優先しているのかといえば、結局のところ人間の抱える問題っていうのは、どれだけ科学が進んでも解決が出来ないのかな、とか。

また、合理性を追求して、個人の私生活や仕事に特化した生活が当たり前になった時、もっとグローバルな視野で合理性とは異なる〝事実〟が存在して、それを突きつけられた時、どう対処出来るのだろうか、とか。

SFとして楽しめた小説でもあったし、読み終えて色々と考えさせられた小説でしたね。

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