森 博嗣『ダウン・ツ・ヘヴン (Down to Heaven)』

4.0
Book

森 博嗣
ダウン・ツ・ヘヴン (Down to Heaven)
(中公文庫)

元々は、押井守監督の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』を観ていて、原作は小説と知っていたものの、それ以上アレコレと調べたりもしなかったのですが、妙に〝引っ掛かって〟いた作品だったので、「そういえば」と思い出して、今更なんですが原作の小説を読んでみようかなと思った次第。

発刊順ではなく、時系列順に読み進めています。

シリーズは短編集を含め全6巻、その2巻目『ダウン・ツ・ヘヴン』(時系列順の2巻目)。

以下、ネタバレもあるかと思いますので、まだ読まれた事が無い方は、このへんで(笑)

主人公の草薙水素とティーチャの出会いからに続く、今回は映画版『スカイ・クロラ』で草薙水素と共に〝何かが変わる〟切っ掛けを呼び込んでくる重要人物・函南(優一)との出会いが描かれますが、まだ「出会った」という事実と、何か関係性が生まれるのか、という伏線程度の範囲で、本筋のストーリーとしては草薙水素自身の事が中心で進みます。
『ダウン・ツ・ヘヴン』で登場する〝函南〟と、『スカイ・クロラ』で登場する〝函南優一〟が、【同一人物】であるかどうかは、この時点ではわかりません。時系列でいうと『スカイ・クロラ』が最後の話になりますので。

草薙水素の活躍は会社内でも高く評価されていたが、戦闘で負傷し入院した事が切っ掛けで、会社側は戦争の最前線で消費される〝兵士〟(キルドレ)としてではなく、指揮官に抜擢しようと動き始めます。
草薙自身は空で戦っている時こそ、一番自由になれる瞬間なのに、それとは相反するような立場にされようとしてしまう。
そんな中、函南という少年と出会い、不思議な体験をする。
療養中で空に飛べない、指揮官になれば今後も飛ぶ機会が無いかもしれないという鬱屈した状況の中、戦闘の話が舞い込み、更に相手は行方知れずだった〝ティーチャ〟だと知って、これ以上ない優越感と期待を持って空へ上がるが、お互いの戦闘機には実弾が装填しておらず、空砲だけの模擬戦闘だった事を知り、怒りと悲しみで我を忘れるも、なんとか基地に戻ってくる草薙水素。

『ナ・バ・テア』を読んだ時は、最初の巻という事もあったと思うのですが、映画版『スカイ・クロラ』と似たような感覚というか、登場人物が〝遠い〟感じに思えて、どういう人物なのか、みたいな事が感じ取れない淡々とした印象が、なんとも独特な世界観で、原作の小説もそうなんだな、と思っていたのですが、この『ダウン・ツ・ヘヴン』は草薙水素自身の内面を描く事に重心があるように思うので、読み進めるうちに『ナ・バ・テア』の第一印象が掘り下げられる感覚になって、草薙水素という人物を少し近く感じるようになれた。

草薙水素の内面といっても、周囲の状況との距離感を描くのに対して、函南との出会いは心の内面の変化を描いているように思う。心の内面という意味では〝ティーチャ〟が絶対的存在だったはずだと思うのですが、そこに〝カンナミ(函南)〟という新たな人物が加わった。
それが、今後の草薙水素にどのような変化をもたらすのか。

この『ダウン・ツ・ヘヴン』で、なにより草薙水素を身近に感じれるような人物としての印象になれたのが、なんかこう、上手く言葉を探せませんが、ちょっと嬉しくなる感じになりましたね。

せっかく「これで死ねるなら本望」とさえ思えた〝ティーチャ〟との空中戦が、大人たちが仕組んだ模擬戦だった絶望感、そして函南との出会い。

続きが気になりますねえ。

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