佐藤勝彦 増補改訂版『眠れなくなる宇宙のはなし』

4.0
Book

佐藤勝彦
増補改訂版『眠れなくなる宇宙のはなし

(宝島社)

日本を代表する宇宙理論物理学者。
インフレーション宇宙論の提唱者でビッグバン宇宙論に続く新しい宇宙論を展開した、佐藤勝彦教授による著書。紀元前の神話の時代から現代まで、人々が思い描いて来た宇宙像を科学的に、その上で読み物として楽しめる内容になっている。

2008年に発刊された『眠れなくなる宇宙のはなし』に、世界中の宇宙物理学者が探し求めていた〝重力波〟が2016年に初めて観測された内容を追加した、増補改訂版として発刊された。

佐藤勝彦教授の事は、インフレーション宇宙論を唱えた頃から知っていました。
その頃は雑誌『Newton』も、宇宙ネタが特集の時は買ったりしていましたし、佐藤勝彦教授やインフレーション宇宙論も特集されたりしていました。
その後、NHK等の科学系番組でも出演されている姿を観たりしていました。

久しぶりに佐藤勝彦教授の話を読む(聞く)、という感じでした。

この『眠れなくなる宇宙のはなし』は、紀元前の人達が空を見上げ、太陽や月、輝く星々が浮かぶ宇宙を、どのように捉えていたのか。それから2000年以上の時を越えて、現代の私達は何処まで宇宙を理解出来ているのか、壮大な人類の宇宙論の歴史を爽快に駆け抜ける内容になっています。

まず面白いな、と思ったのが紀元前、神話の時代。
宇宙は神様が創った、という思想はつい最近まで信じられた来た話ですが、それは遥か昔から脈々と受け継がれて来た考え方で、時には神話になり、時には宗教になり、何時の時代も政治に利用され、民を治めて来た歴史がある、と。
そんな神話の紀元前、既に〝地動説〟の考え方を持っていた、というのですから、とても奇妙で面白い。
自分達のいる場所(地球)こそ、全ての中心であって、その周りを太陽や月、その他の星々が回っている、という〝天動説〟が最初かと思っていたのですが、どうも違うらしい、と。

それから神話の力が強くなり、宗教になり、そのような思想が強くなって権力となり、民を治めた時代が続く中で、宇宙は神様が創造し、地球は宇宙の中心であるという〝天動説〟が主流となっていく。
いやいや、地球は太陽の周りを回っている、他の星々と同じようなものだ。という〝地動説〟は神に反する、即ち権力者に反するという事で抑圧されて行く。

そんな中、長い間これまで肉眼でしか宇宙を観察出来なかった時代から、いよいよ望遠鏡が発明された事で事態は一変。肉眼で観える星々はもちろん、これまで肉眼では観えなかった新たな星まで、より具体的に観測して記録出来るようになった。
どう考えても、地球は宇宙の中心じゃない。

それどころか、本当に神様が宇宙を創造したなら、それはとてもシンプルで美しいものに違いない。
だとすれば〝天動説〟は、全く辻褄が合わない。こんな辻褄の合わない宇宙を神様が創造するわけがない。

〝地動説〟を改めて唱え始めた人達は、けっして神様が宇宙を創造した、という事を否定したかったのではなくて、観測の事実の下に、よりシンプルで美しく、合理性が伴ったものが〝地動説〟で、それこそまさに神様が創造した宇宙に違いない、と考えていた。

科学的な根拠が、神様の天地創造の根拠、という考え方も面白かった。

観測が進めば、「なぜ、そうなるのか」という理論を考え始める。
理屈が理解出来れば、予測も出来る。
太陽や月、星々の動きで暦を作ったり、占いをしたり、農作物を作ったりしていた人類にとって、予測する事は大切でした。

宇宙の法則を初めて具体的に、科学的に理論立てて証明したのは、林檎でお馴染みのニュートンが登場してから。ニュートンの理論で、星々の動きの多くの謎が解明され、太陽系の未知の惑星が発見される切っ掛けになりました。

それでも尚、新たな謎が生まれ、ニュートンの理論だけでは説明の付かない事が沢山ある中、いよいよ20世紀最大の天才、アインシュタインが登場。
誰もが知ってる〝光〟を、この世の全ての絶対基準という理論を唱え、そのおかげで〝時間〟という存在、概念が曖昧なものになってしまう。
更に絶対基準の光の下で、ニュートンの理論を取り入れると〝空間〟という概念まで曖昧になってしまった。
この世の時間も空間も絶対ではなく、時間は遅れたり早くなったり、空間は歪んだりする、奇想天外な理論、『一般相対性理論』が誕生して、いっきに宇宙誕生の瞬間まで研究が進む事になった。

更にそれでも、謎が謎を呼ぶ宇宙。

佐藤勝彦教授が提唱したインフレーション理論をはじめ、様々な宇宙論が誕生する現代。

宇宙誕生、その瞬間の痕跡を知る事は出来るのでしょうか。

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