リュック ペリノ
『0番目の患者』
(柏書房)
最近、本を読んでないなー
と言うか、本屋に行ってないなー
普段から気になる本、読んでみたい本、なんていうのをリサーチしているわけでもないので、いざ本屋に行くと、ひたすらウロウロするだけで結局は、何も買わずに退散する、っていう事の方が多い。
まあ、本屋をウロウロするだけでも楽しいもんなんですが。
そんな、ある日。
通勤で、電車の待ち時間に駅前の本屋に入った。
小さな本屋さんですが、以前から店主の拘りが感じられるなぁ、という選ばれた本が並んでいる印象の本屋さん。
ふと目に止まったのが、この『0番目の患者』。
帯には、こう書かれていた。
輝かしい歴史の裏に渦巻く欲望と病者たちの犠牲と貢献。
この一節を読んで、最初に思い浮かんだのが、某国営放送番組『フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿』。
この番組では、
輝かしい科学の歴史の陰には、残酷な実験や非人道的な研究、不正が数多くあった。
そんな闇に埋もれた事件に光を当て、「科学」「歴史」「倫理」に迫るシリーズ。
科学や医療の発展によって、現代の私達に計り知れない恩恵があるわけですけど、そもそも、その1つ1つの始まりに目を向けると、実は現代の常識や倫理観では、決して許されないような出来事が沢山あった、と。
例えば、所謂〝ロボトミー〟と言われる、精神障害の症状を治療する為に、大脳の一部を外科手術で切り取るような治療が、平然とおこなわれていた時代があって、非人道的な人体実験と引き換えに、生きた人間の脳を深く研究する事が出来た。
ロボトミーに関わる話は、この『0番目の患者』、『フランケンシュタインの誘惑』の両方で取り上げられている。
もしかして、テーマが似てる?、と思って、凄く興味があったので、この『0番目の患者』を購入。
『フランケンシュタインの誘惑』では、科学者や医者にスポットを当てた内容になっていますが、この『0番目の患者』はタイトルにあるように、患者にスポットを当てている。
名も無き患者達の存在が無ければ、その病名も治療への道も無かった。
著者の、ワクチンを作った科学者や治療法を発見した医者でもなく、その全ての切っ掛けともいえる〝患者〟に賞賛を贈りたい、という気持ちが、この本に現れていると思います。
タイトルの〝0番目〟の患者とは、元々は感染症の世界で使われる言葉だそうで、集団内で初めて特定の感染症にかかったと見なされる患者の事を、こう表現するそうです。
この本では、〝0番目〟の患者を感染症以外の色々なケースに、あえて当てはめる事で、様々な病気や症例が知られる、広まる切っ掛けとなった患者を、19篇の症例から取り上げて紹介しています。
1つ1つの症例と患者にまつわるエピソードは短いので、とても読みやすいと思いますし、特に私のように全く医学の知らない人が読んでも、大丈夫なように書かれています。
その反面、ちょっと興味のあるエピソードだったりすると、アッサリと終わってしまうので、もうちょっと深く知りたいと思ってしまいます。そのあたりは、興味があれば自分で他の本や情報を読んでね、という事なのでしょう。
本のタイトルや表紙からくる、ちょっと〝おどろおどろしい〟?、という印象は、本篇を読むと、ありません。
淡々とエピソードが綴られている感じです。
表向きのテーマは〝患者〟ではありますが、著者がこの本で本当に言いたかった事は、現代の医療体制や医療倫理感に対する警鐘なのでは、と感じました。
それが医者の欲望だったにせよ、非人道的な人体実験だったにせよ、昔は医者と患者の関係だったのが、今や患者はもちろん、医者すら脇役になってしまった。
誰が新しい病気を見つけだし、誰が治療法を作り出すのか。
根底に、うっすらと批判的な目線を感じる本かなと思うと、色々と考えさせられますね。。
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